あした来る人 [book]
長い間、本棚に置き去りにされインテリアと化していた本をついに読んだ。井上靖との出会いは、中学一年生のときの国語の教科書に「赤い実」(『しろばんば』より抜粋)という作品が載ってたから。初恋を瑞々しく描いたこの話が私は大好きだった。そして、井上靖の小説を何冊か買ってきた。
その頃、「好きな作家」というのが欲しかった。同級生達は、赤川次郎とか、片岡義男とかに夢中になっていた。なんだか、みんなと同じというのも芸がないし、一・二冊読んでみたが、それほど共感もしなかった。そこで、井上靖を好きになってみることにした。
苦節二十数年、ついに完読
しかし、井上靖の多くの作品は中学生の私には難しすぎた。「あした来る人」というのは、タイトルに惹かれて買ったのだが、「朝日新聞」に連載されていたということもあって明らかに大人の読み物だ。あの頃の私には、ページをめくることも困難な本だった。
さて、時が流れ何十年ぶりに「あした来る人」を手にとってみた。基本的には娯楽小説だが、井上靖らしい巧みな描写が楽しかった。六十代の老紳士の視点で不器用ながらも、懸命に、失敗しながら生きる二十代、三十代の若者たちを「あした来る人」として見つめる。
特に、必読の書ではないが、ちょっとした暇つぶしにはなる。
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